生き抜く土台を手に入れる。至高の心を生み出す愛着形成【アタッチメント】

2021-06-14

人は体だけ在っても人ではない。心があるからこそ人であることができる。僕は心というモノは、生きるために必要不可欠なモノ。学習の土台。「愛着(アタッチメント)」だと考えている。

フリードリヒは50人の赤ちゃんを集め、お世話をする乳母たちに、このように言った。

  • 赤ちゃんの目を見てはいけない
  • 赤ちゃんに笑いかけてはいけない
  • 赤ちゃんに話しかけてはいけない
  • 赤ちゃんとスキンシップを取ってはいない
  • 赤ちゃんの衣食住、お世話は欠かさないこと。

つまり、生きるために必要なことは全てした。愛情表現以外は。すると、その50人の赤ちゃんは全員、誰一人として1歳の誕生日を迎えることなく死んでしまった。

心理学者のルネ・スピッツは、戦争で孤児になった赤ちゃん55人を集め、フリードリヒと同じように、赤ちゃんとスキンシップを一切取らない実験をした。

その結果、55人中、27人→2年以内に死亡。17人→大人になる前に死亡。11人→大人になっても知的障害や情調障害が残った。

このような例はごまんとある。そこで人は「愛」がなければまともに生きることができない。という事が証明された。

とはいえ、これらは非人道的な実験であり学術的には価値を持たない実験である。だから教科書などでは、ハーロウのアカゲザルの実験が「愛情」の必然性の証明として利用されている。

ハーロウは、針金でつくった代理母と、布で覆った代理母を用意した。条件は同じでもアカゲザルは針金製の代理母には懐かなかった。しかも軟便が多くストレスを多く感じていたようだ(Harlow, 1958)。

この実験から、養育者との「触れ合い」や「温もり」はただ栄養をもらう以上の役割がある。そう証明した。それからイギリスの精神科医ボウルビィは、不安や恐れを感じた子供が信頼できる大人にくっつく事(attachment)で安心感を獲得するという経験の積み重ねが、のちのち社会性の発達の土台となるという考えを得た。

これが愛着(アタッチメント)理論として整理された。(Bowlby, 1969, 1973, 1980) 今では育児に欠かせないものとされ保育や子育て支援の現場で生かされている。

この愛着はどういったものか。心とどう関係があるのか。それをこれから見ていこうと思います。

アタッチメント(愛着)ってなに?

アタッチメントが形成されないと先ほどの実験から分かる通り、死ぬ。

もしくは、異常のない健康的な肉体をもって生まれたとしても、触れ合いがないと体は衰弱していく。そして精神もまともに保っていられなくなり、生きることが地獄になる。

鬱や不安障害、依存症、境界性パーソナリティ障害、過食症といった神経症の原因となる。

なぜこんなことになるのかというと、ワーキング・モデルがないからと言える。

心理学においては、『心』といった曖昧な概念は《反応》という観測可能なモノに言い換えます。

「泣いたら抱っこして声掛けしてもらえる」
「話しを聞いて貰える」
「共感してもらえる」

こういった経験が「愛される」という行為なのだと学ぶ。つまり《愛》という反応を学んだといえます。そして学んだ反応を使って、《相手の話を聞く。相手と共感する。》という行動を行う。こうした行動を観測できること。これが人の成長です。つまり人を育てるというのは、行動パターンを教えてあげる事と言えます。

この重要な最初の仕事は親です。親の反応を真似て作っていくんです。これを『愛着』と呼びます。心とは『愛着』の事を言います。

人は、生まれてから愛情を注がれることによって心が生まれる。《心=愛着》つまり正常な反応を身に着ける。それが人生を生き抜く土台となる。

アタッチメントとは、外の世界に出る為の足場。安全基地といえる。

エリクソンはこれを基本的信頼感と表現した(Erikson, 2001)。子供が何かしらの危機にさらされ不安や恐れといったトラブルを、養育者によって解決される。そんな経験から徐々に自分を含めて世界を信頼できる人間となるか、何物も信頼できない人間となるか。という人生を歩む一歩目の課題。壁として基本的信頼感の獲得を主張した。

つまり、自分や周りを信頼することで、自分の力で、人で生きていく基礎。自分を制御できるようになる(Sroufe, 1996)。つまり自律性を獲得する。

言い換えると、理想的な基本的信頼感(アタッチメント)が形成された子は、他人を信じ、自分を信じ、精神も強く、愛し愛されることができる人間になれます。

対人関係においても、仕事においても高い適応力を示す。人とうまくやっていくだけでなく、深い信頼関係を築き、それを長年にわたって維持していくことで、大きな人生の果実を手に入れやすい。どんな人に対してもきちんと自分を主張し、同時に不要な衝突や孤立を避けることができる。困ったときは助けを求め、自分の身を上手に守ることで、ストレスからうつになることも少ない。人に受け入れられ、人を受け入れることで、成功のチャンスをつかみ、それを発展させていきやすい。

生きていく基礎となるといえる。

そして、愛着形成を行った対象を観察、模倣し受容される。抱擁されるなどによって様々な状況を、養育者と共に乗り越える経験。それが子供の行動の基礎となる。これをワーキング・モデルという。自身の経験則(ワーキング・モデル)をよりどころとして一人でトラブルに対処できるようになる。人生を歩むための土台ができる。

このワーキング・モデルが心の原型のように思う。人から受け入れられる感覚。人を愛する方法。不安や恐怖を乗り越えられる確信。といったもの。

心理学的に《心や愛》を表現すると《反応(レスポンス)》を学ぶことと言える。ワーキング・モデルはその原型だ。

ただ、このワーキング・モデルがその後の人生のすべてではない。あくまで基礎だ。これを土台として更に体験を繰り返し学び、自分はこういう人間だと自分を作り上げる。つまりアイデンティティ確立する。

すこし難しくなってしまった。簡単に言うと「親はお手本。」そんな認識でいいかもしれない。実用的だ。

養育者の子供との接し方で子供の行動は変わる。ワーキング・モデルの出来方が変わる。といった単純な話だ。

アタッチメントの発達段階

子どもはどのようにアタッチメントを築き、人生を自分の力で歩んでいくのか。

ボウルビィによると2,3年かけて形成されるという。三つ子の魂百まで(幼い頃の性格は、年をとっても変わらないということ)、これはアタッチメントの観点から多少は的を得ているのかもしれない。

アタッチメントは4つの段階に分けることができる。

第一段階(無差別期)

他者に対して無差別的に愛着行動を起こす。つまりまだ誰ともアタッチメントを形成しておらず誰でもいいから自分を助けてくれる人を探している段階だ。一般的に出生から3カ月ほどの時期に見られる。

第二段階(段階的選別期)

両親などの身近な人に対して、特別な反応を示すようになる。愛着対象が絞られてくる。生後3カ月~6か月の子によく見られる。

第三段階(選別期)

特定の人物を愛着対象として選ぶ。それ以外の人物と明確に区別するようになる。知らない人に抱っこされると泣くなど人見知りが見える。この段階でネグレクトや離婚により愛着対象がいなくなると致命的。愛着障害を抱える可能性が高い。生後6か月~2,3歳までの子に見られる。

第四段階(定着期)

アタッチメントによる基本的信頼感を築く。愛着対象者の行動を見て学習。自律的に行動できるようになり人生の第一歩を踏み出す。

愛着形成による行動と性格の獲得

大まかに分類すると、愛着形成によって回避型(A-Type)・安定型(B-Type)・アンビバレント型(C-Type)・無秩序、無方向型(D-Type)という4パターンが確認できる。

最も良好、望むべきは安定型(B-Type)だ。仕事・人間関係・学業なにをとっても一番成績がよく健康面でもリスクが少ない。

理想的な愛着形成を促す、愛情の伝え方。

安定型(B-Type)の愛着形成を目指す接し方として5つの条件がある。

  • 安全感の保証。お母さんの所にいれば大丈夫と思える事。
  • 共感。悲しいという気持ちを分かってくれる。教えてくれる。
  • 応答性。認めてもらえている。助けてくれるという安心感につながる。
  • 傾聴の姿勢。何でも話せる状況。
  • これら全てがいつでも提供される。つまり安定している事。

この5つだ。注意点としては忙しさや体調不良、ルール、教育方針によって「共感・傾聴・安定性」は揺るぎやすい。

子供の気持ちに共感せず「はやくしなさい」。
子供の話を聞かずに「ダメ。今忙しいから後にして」。
イライラが溜まり、今まで怒られなかった行動がいきなり怒られる。

といった状況だ。ただまぁ上記の対応法は、あくまで理想だ。出来ればでいい。一番大事なのは子供も「自分」も幸せを感じていることだ。自分なりでいい。

それに子供の生まれながらの気質によって、どう頑張っても愛着型がうまくいかないこともある。親も理想的な対応が難しい場合もあるだろう。可能な限り取り入れてみる。そんな姿勢で構わない。

赤堀先生の愛着形成論

僕は、愛着とはやはり《Attachment(接触)》が大事だと思っている。触れ合う事でオキシトシンが分泌するからだ。

オキシトシンとは、幸せホルモンと呼ばれるモノ。出産を促したり、幸福感を感じたり、相手を信用したりする時に分泌される。

母親は、出産した瞬間に爆発的にオキシトシンが分泌されるので、生まれた我が子を抱くと愛しくてたまらない。自分の命より大切だと感じます。つまり母→子への愛着形成は出産後すぐに出来上がる

一方、子→母。父←→子は、実際に触れ合うことによって、徐々にオキシトシンが分泌され愛着形成が行われる。つまり自然と親子になっていくわけではないという事。共に過ごし、増えあう事で親子になっていく。

因みにこのオキシトシンは、身内の者を愛し守る。一方、部外者は排除し攻撃的になる一面もあります。

子育て中の野生動物が、すぐに襲ってきたりするのもオキシトシンが関わっています。

ここで、とっても大事なお話があります。出産までに夫婦仲が悪くなってお母さんから身内だと認識されない状態になっていると、オキシトシンの分泌でもう手遅れになります。

そう、部外者として排除されてしまいます。第2子や第3子が生まれる時もそうです。妊娠中に浮気してバレたりするともう絶望的です。ただ逆に献身的に妻を支える良夫であればオキシトシンのブーストでさらにラブラブな関係になれます。

もちろん、ただ触れ合えばいいわけではないです。子供を受け入れてあげる。子供が安心できると感じる事。そして親のマネをしようと思える事。これが大事です。

僕なりに愛着形成に必要な要素を図にしてみました。

たくさん触れ合って、その中で温もりや安心感、信頼というモノを作っていく。そして自分という存在のあるべき姿としてマネしていく。こうして愛着形成を行いワーキング・モデルをつくり、人生の土台を作っていくんじゃないかなと思います。

我が家ではこうやって接しているよ。といったアドバイスがあれば是非コメントして皆さんに共有してください。